毎月の給与計算、社会保険の申請や算定基礎届の提出において、現金以外の支払い以外にも現物で支払ったものがある場合には「現物給与」として記入しなければならない場合があります。
現物といっても、会社が通勤手当の代わりに定期券などで支給している場合や、会社で借り上げた住宅(寮)などに済ませている場合においても、条件に該当すると「現物給与」の対象となります。
また、給与に関わる税金といった「税務」の点と、社会保険の申告といった「労務」の点で現物給与の計算が違っていたりします。
今回はそんな見落としやすい「現物給与」の範囲と内容について解説していきます。
目次
現物給与とは
現物給与とは、金銭以外に現物を給与として支払ったものが対象になります。
現物給与となる具体的な物としては
◇通勤定期券、回数券含む
◇食事、食券
◇社宅、寮
◇服(勤務服でないもの)
◇自社製品
などがあります。
社員の福利厚生として考えていたものが、現物給与に該当する事もあるので注意が必要です。
ただ、現物給与の対象とならない物もあり
◆制服、作業着
◆見舞品
◆食事(本人の負担額が2/3以上の場合)
などは現物給与の対象となりません。
少し判断が難しい「現物給与」について、具体的に説明していきます。
「通勤定期券」の現物給与扱い
通勤手当を金銭ではなく定期券や回数券で支給している場合は、その全額が現物給与の対象となります。
また、定期券などは3ヶ月や6ヶ月単位で支給する事も多いかと思いますが、その場合は1カ月当たりの額が現物給与の額となります。
算定基礎届にはこの1カ月あたりの額を報酬として記入しますが、この時1円未満の端数が出た場合は、端数を切り捨てて記入します。
給与計算における通勤費の課税については、1か月当たりの合理的な運賃等の額(最高限度 150,000円)を超えた部分が課税対象となります。
ポイント
通勤定期券 = 1カ月当たりの額が、現物給与額となる
「食事代」の現物給与扱い
「食事代」の現物給与の計算は少し複雑です。
まず国税庁が定めている毎月の給与課税における食事代の現物給与と、社会保険の食事代の現物給与は捉え方が若干違っています。
給与計算における食事の現物給与
国税庁のHPでは、食事を支給した時の給与課税について次のように示しています。
給与課税の対象外となるには
(1) 役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること。
(2) 次の金額が1か月当たり3,500円(消費税及び地方消費税の額を除きます。)以下であること。
(食事の価額)-(役員や使用人が負担している金額)
この2つの要件を満たしている必要があります。
また、深夜勤務者に夜食の支給ができないために1食当たり300円以下の金額を支給する場合や、残業又は宿日直を行うときに支給する食事は、無料で支給しても給与として課税しなくてもよいことになっています。
これらの条件を満たしていない場合には、現物給与として課税対象(税金がかかる)となるので注意しましょう。
社会保険における食事の現物給与
社会保険の申告において食事代の現物給与は、都道府県ごとに厚生労働大臣が告示で定める現物給与の価格を記入します。
従業員から食事代の一部を貰っている場合はその額を差し引いた額が現物給与として報酬欄に記入します。
ただし、従業員から現物給与の価格の3分の2以上をもらっている場合は現物給与の対象から外れ、記入は不要となります。
また、従業員から食事代を1食毎に徴収している場合などは、その価格を用います。
「住宅」の現物給与扱い
会社が従業員に社宅や寮などの住宅を提供する場合においても、毎月の給与課税における住宅の現物給与と、社会保険の住宅の現物給与は捉え方が違っています。
それぞれの住宅における現物給与の取り扱いについて見ていきましょう。
給与計算における住宅の現物給与
国税庁HPより、使用人に対して社宅や寮などを貸与する場合には、使用人から1か月当たり一定額の家賃以上を受け取っていれば給与として課税されません。
具体的な一定額の家賃以上の額というのは
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
となります。
もし社員に無償で寮を貸与する場合には、この賃貸料相当額が給与として課税されます。
社会保険における住宅の現物給与
社会保険の申告において住宅の現物給与は、食事代と同様に都道府県ごとに厚生労働大臣が告示で定める現物給与の価格を記入します。
住宅については畳1畳当たりの価値が設定されていて、洋室などの畳で計算できない場合は1.65㎡を畳1畳として計算します。
また、価値を算出する場合は住居用の部分のみが対象となり
◇玄関
◇台所
◇トイレ
◇浴室
◇廊下
は含まれません。
従業員から住宅代の一部を貰っている場合はその額を差し引いた額が現物給与として報酬欄に記入します。
現物給与の違い まとめ
今回は見落としやすい「現物給与」の対象範囲と、税務と労務における現物給与の取り扱いの違いについて解説しました。
定期券の支給や食事代・社宅の提供などは行っている企業も多いため、現物給与に関して正しく処理ができているか注意が必要です。
また、社会保険における現物給与の価値を定める「構成労働大臣が定める現物給与の価格」は物価の変動により見直しがされるので、毎年最新版を確認するように注意しましょう。
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